心療内科

2020年1月28日

心療内科と精神科はどこがちがうの?

現代人はストレスと戦っていると言っても(というのは)言い過ぎではありません。私は"体"の病気を診る医師ですが、患者さんを診ていると"体"より"心"が病んでいるのでは-、と思う時もあり、そのようなときには"心"を診てくれる医師へ患者さんを紹介します。「精神科」への紹介がいいと判断し患者さんに説明すると、「精神科はちょっと・・・」や「心療内科に紹介して欲しい」といわれたことがあります。「精神科」を受けるということは恥ずかしいことだと思っておられるのではないかと推測します。「精神科」と「心療内科」では診療対象が異なりますが、医療従事者でも区別ができないことがありますので、まして一般の人ではその区別は困難といっていいでしょう。そこで、今回の≪もりもり先生のメディカルコラム≫では、「心療内科」「精神科」「神経内科」「脳神経外科」などはどう違うのかを説明したいと思います。

心療内科

内科領域、各科領域の身体疾患の中で、発症や経過にストレスが関係する病気を心身両面から診療する科(心身症を診る科)です。言い換えると、心療内科は身体と心を分けずに全人的医療を行う内科です。心療内科医はまず身体を診られる医師でなければなりません。たとえば、心筋梗塞や吐血で来られた患者さんの初期対応ができないと心療内科医ではないわけです。次に、身体と心の関係の病態に焦点を当て診断と治療を行える医師でなければなりません。病気になったことだけで私たちは大きなストレスを受けてしまいます。会議や試験前になると緊張してお腹が痛くなって下痢をしてしまうこともあります。もともと身体と心を分けることはできないのです。身体と心を分けずに医療を行う内科医が心療内科医だと考えてください。そのため、心療内科で取り扱う疾患は多種多彩です。具体的にあげてみると、消化器疾患としてはFD(Functional dyspepsia機能性胃腸症)、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、慢性膵炎、食道アカラシア、びまん性食道けいれん、難治性・再発性の胃潰瘍、十二指腸潰瘍など、慢性疼痛では各科の腹痛、頭痛、腰痛、胸痛などの慢性に続く痛み、がんに関係するものとしてはサイコオンコロジ-(精神腫瘍学)に基づくがん患者さんの治療やケア、アレルギー疾患では難治性気管支喘息、アトピー性皮膚炎、慢性じんましん、循環器疾患では原因不明の胸痛や動悸、動揺性高血圧症、発作性頻拍症、ストレスが関与する虚血性心疾患、内分泌疾患ではコントロ-ルの難しい糖尿病、甲状腺機能亢進症、肥満症、神経系疾患では片頭痛、緊張型頭痛、痙性斜頚、書痙、めまい症など、泌尿器科系では夜尿症、神経性頻尿、心因性インポテンツなど、産婦人科領域では更年期障害、月経前緊張症など、です。心身医療が各科で行われるようになれば、心療内科は内科領域だけを担うことになります。

精神科(精神神経科)

精神症状をきたす疾患を治療する科です。「心だけの病気」を診る科といってもいいと思います。眠れない、憂うつである、イライラする、幻聴が聞こえる、感情がコントロールできない、アルコールをやめられない、などが対象であり、疾患名でいうと、統合失調症、躁うつ病、うつ病、神経症(不安障害、社会恐怖、強迫性障害)などの精神疾患や、てんかん、アルコ-ル・薬物依存、せん妄、認知症、健忘、不眠など、一般身体疾患や脳器質的疾患に基づく精神症状も扱います。

神経内科

脳神経が炎症や変性で物理的にやられてしまったもの(脳神経系の器質的な病気)を治療する科です。その中でも内科で治療、管理できる病気を診ます。たとえば、パーキンソン病、脳梗塞、多発性硬化症、脊髄小脳変性症、進行性筋ジストロフィー、三叉神経痛などの病気です。頭痛症,顔面痙攣,各種ジストニア(斜頚など)などを診ることもあります。

脳神経外科

脳神経が物理的にやられてしまったもので、外科で治療、管理できる病気を診る科です。脳腫瘍、くも膜下出血、脳動脈瘤、脳卒中の一部などを対象とします。

「精神科」と「心療内科」の違いを述べてきましたが、理解していただけましたでしょうか?わかったようで、わからないような感じというのが実感だと思います。心療内科があるのは日本とドイツだけで、わが国の医学部に心療内科の講座があるのは5つだけです。実際、「心療内科とは何ですか?」という質問に自信を持って明確に答えることのできる診療内科医はそう多いとは言えないと某大学の心療内科学教室の教授は言っておられます。専門医でさえ、よくわからないのですから、一般の人にはわかりにくいのは当然です。しかし、今回のコラムで"なんとなく、こんなもんだなあ"と思っていただければ、それだけでもあなたは知識豊富な人になったかもしれません。

(今回のコラムは、関西医科大学心療内科学の中井吉英教授の文章を参考にさせていただきました)