「PET」について

2020年1月28日

 今回のメールニュースはペット(PET)の話です。ペットといっても、イヌ、ネコなどのことではありません。「そんなことわかっているわ!」とお叱りの声が聞こえそうですが、親父ギャグと思ってお許しください。

 PETとは Positron Emission Tomography の略で、陽電子放射断層撮影装置と訳されています。核医学領域において生理的活性物質を標識して、その挙動を機能画像としてとらえる医療機器です。癌、脳、心臓の病気などの早期発見・早期治療に有効で発見精度が高く、21世紀における最先端医療の画像診断方法として注目されています。特に、がんの早期発見には広く利用されつつあります。PETでがんが検出できる仕組みを説明しましょう。活動の活発ながん細胞は、正常な細胞に比べて体の中で旺盛にブドウ糖を取り込みます。その量は正常細胞の3~8倍といわれていますので、ブドウ糖によく似た構造のFDG(フルオロデオキシグルコース)に標識(ポジトロン核種)を付けたものを静脈から注入し全身へ取り込ませますと、FDGはがん細胞に多く取り込まれます。それを特殊なカメラ(PET装置)で撮影すると、FDGに付けたポジトロンが異常に多く集積した場所が突き止められ、そこにがん細胞があると判断できるということです。
  わが国では2002年にPET検査は、てんかん、虚血性心疾患、悪性腫瘍(脳腫瘍、頭頚部癌、肺癌、乳癌、膵癌、転移性肝癌、大腸癌、悪性リンパ腫、悪性黒色腫および原発不明癌に限る)の診断を目的として、一定の要件を満たす場合に限り、保険適用承認となりました(7,500点=75,000円)。これを契機にわが国においてもPET検査施設は急速に増加しつつありますが、自由診療と組み合わせて運営している施設が大部分です。
  自由診療については人間ドックの形態のPET検診(大部分はがん検診を目的にしている)が主体です。検診としてのPET検査の利点は、非侵襲的できわめて安全性が高いということと対象臓器が全身(今までの検診法は一つの臓器を対象としたものですが、PET検査は全身が対象臓器である)という点です。PET検査を用いると全てのがんが早期に、また、一度に発見できると思っておられる患者さんが多く見られます。平成17年1月20日の朝日新聞では「3mm以下のがんも短時間で発見できるPETの次世代撮影機を試作」という記事もありました。しかし、現実には、PET検査では検出が容易ながんと困難ながんがあり、そのことは医療従事者や受診者にも知っていただく必要があります。正常でも活発にブドウ糖代謝を行う臓器(脳など)やブドウ糖の排泄の際の通り道となる腎臓、尿管、膀胱などはPET検査には向かないところですし、がんでもあまりブドウ糖を取り込まない種類や時期もありますので、そのようながんではPET検査では陰性になります。実際、乳癌については限局性乳管浸潤癌、肺癌では微小腺癌、大腸癌では粘膜内癌では陰性になることが多かったと報告されています。これらはいわゆる早期癌であり、これらの検出にはマンモグラフィや高分解能CT検査や消化管内視鏡検査のほうが有用です。食道癌や大腸癌といった管腔臓器のがんでは内視鏡検査や二重造影検査(透視)が診断の中心となりますが、リンパ節転移の検出にはPETは有用です。頭頸部癌ではその診断よりも治療後の再発の診断にPET検査は役立つといわれています。
  PET検査の実際は、4時間以上絶食した後にFDGの注射を受けます。FDGが全身に回るのに約1時間が必要ですのでその間は安静にし、その後PET検査装置で撮影します(20~30分)。1回の検査で全身(これにはいささか問題があるが-)の"がん"検査ができ、早期に発見することも可能ですので、今後はがん検診の主流となると思われますが、PET検査の弱点を念頭におき、CT検査やMRI検査、超音波検査、血液検査などの複数の検査を組み合わせることが検診の精度をあげる方法であると思われます。