ノロウイルス

2020年1月28日

【1】「ノロウイルス」ってどんなウイルス?

 1968年にアメリカのオハイオ州ノーウォークという町の小学校で集団発生した急性胃腸炎の患者の便からウイルスが検出され、そのウイルスは発見された土地の名前よりノーウォークウイルスと呼ばれました。その後、非細菌性急性胃腸炎の患者からノーウォークウイルスに似た小型球形ウイルスが次々と発見され、2002年8月の国際ウイルス学会で正式に「ノロウイルス」と命名されました。
 「ノロウイルス」は食中毒の原因となることが知られていますが、ウイルス粒子だけでは増えることはできず、人間の生きた細胞の中のみで増えることができるので、食品中に含まれるウイルスを検出することが難しく、食中毒の原因究明や感染経路の特定を難しいものとしています。

【2】「ノロウイルス」による感染ってどんな感染ですか?

 このウイルスによる食中毒の原因食品として生カキ等の二枚貝あるいは、これらを使用した食品や献立にこれらを含む食事が大半を占めています。
下水を検査すると年間を通じてこのウイルスが検出されることが最近わかりました。これが、河川を通って海に流れ込みます。二枚貝は大量の水を吸いこんでえさを取り込んでいて、えさと一緒に取り込んだウイルスを体内で濃縮します。だから、貝の住む海域がこのウイルスにどれだけ汚染されているかで、貝の体内のウイルス量も変わるのです。カキなどは栄養が豊富な河口で養殖されることが多いので汚染されやすいようです。カキには「生食用」と「加熱用」がありますが、「生食用」とは細菌の量によって決めているので、このウイルスが含まれていないという保証ではありません。保存方法が悪いから貝の中で増えるというものではないので、新鮮なものでも食中毒になる恐れがあります。
このウイルスの感染経路はほとんどが経口感染で、「ノロウイルス」に汚染されたカキなどの二枚貝を生などで食べるか、このウイルスを持った人がトイレの後で手をよく洗わずに調理をすると、ウイルスが食品に付着してしまい、汚染された食品が食中毒の原因になることもあります。また、少量(数個から100個程度)でも感染するので、食べ物だけでなく、人→人、人→器具→人などの感染もあります。

【3】どんな時期に「ノロウイルス」食中毒は発生しやすいのですか?

 我が国では「ノロウイルス」食中毒は、食中毒患者の中で第1位の患者数を示し、年間7000~8000人くらいの報告があります。月別の発生状況をみると、一年を通して発生はみられますが、11月くらいから発生件数は増加しはじめ、1~2月が発生のピークになる傾向があります。

【4】「ノロウイルス」に感染すると、どんな症状が出るの?

 潜伏期間(感染から発症までの時間)は24~48時間で、主症状は吐き気、嘔吐、下痢、腹痛であり、発熱は軽度(38℃以下)です。通常、これら症状が1~2日続いた後、治癒し、後遺症もありませんが、まれに1日20回程度の激しい下痢をすることがありますので、油断は禁物です。また、感染しても発症しない場合や軽い風邪のような症状の場合もあります。
症状が落ち着いた後1週間ぐらいは、便にウイルスが排出されるようですから、調理前の手洗いはしっかりして下さい。

【5】発症した場合の治療方法は?

 現在、このウイルスに効果のある抗ウイルス剤はありません。このため、通常、脱水症状がひどい場合に輸液を行うなどの対症療法が行われます。

【6】カキを料理するときの注意点とは?

  「ノロウイルス」は、主にカキの内臓に存在していますので、カキの表面を洗うだけではウイルスの多くは除去できません。また、カキを殻から出す時あるいは洗う時には、まな板等の調理器具を汚染することがあるので、専用の調理器具を用意するか、カキの処理に使用したまな板等は、よく水洗あるいは熱湯消毒等を行った後、他の食材の調理に使用することなどにより、他の食材への二次汚染を防止することが重要です。カキ以外にもウチムラサキ貝(大アサリ)、シジミ、ハマグリ等の二枚貝が食中毒の原因食品となっています。食品の中心温度85℃以上で1分間以上の加熱を行えば、「ノロウイルス」の感染性はなくなるとされています。
さらに、カキを調理したあとは手指もよく洗浄、消毒してください。食品取扱者は常に爪を短く切って、指輪等をはずし、石けんを十分泡立て、ブラシなどを使用して手指を洗浄します。すすぎは温水による流水で十分に行います。石けん自体には「ノロウイルス」を直接失活化する効果はありませんが、手の脂肪等の汚れを落とすことにより、ウイルスを手指から剥がれやすくする効果があります。
「ノロウイルス」の失活化には、エタノールや逆性石鹸はあまり効果がありませんので、調理台や調理器具を殺菌するには、次亜塩素酸ナトリウムを使用したり、加熱する必要があります。調理器具等は洗剤などを使用し十分に洗浄した後、次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度200ppm)で浸すように拭くことでウイルスを失活化できます。また、まな板、包丁、へら、食器、ふきん、タオル等は熱湯(85℃以上)で1分以上の加熱が有効です。

【7】その他の注意点は?

 患者の便や吐物を処理する際には注意しましょう。「ノロウイルス」が感染・増殖する部位は小腸と考えられていますので、嘔吐症状が強いときには、小腸の内容物とともにウイルスが逆流して、吐物とともに排泄されます。このため、便と同様に吐物中にも大量のウイルスが存在し感染源となりうるので、その処理には十分注意する必要があります。
  患者の吐物や便を処理するときには、使い捨てのマスクと手袋を着用し汚物中のウイルスが飛び散らないように、便、吐物をペーパータオル等で静かに拭き取ります。おむつ等は、できる限り揺らさないように取り扱います。
  便や吐物が付着した床等は、次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度約200ppm)で浸すように拭き取ります。拭き取りに使用したペーパータオル等は、次亜塩素酸ナトリウムを希釈したもの(塩素濃度約1000ppm)に5~10分間つけた後、処分します。
  また、ノロウイルスは乾燥すると容易に空中に漂い、これが口に入って感染することがありますので、吐物や便は乾燥させないことが感染防止に重要です。