救急蘇生

2020年1月28日

新しい救急蘇生ガイドライン

 1960年までは、救命処置により蘇生が成功するのは、呼吸が止まった傷病者に限られていたと報告されています。その後、蘇生法の発達、致死的な不整脈を止めることのできる除細動器の性能の進歩により、呼吸が止まり心臓の止まった状態から多くの命が助けられるようになりました。2000年にはエビデンスに基づいた蘇生ガイドライン『心肺蘇生と救急心血管治療のための国際ガイドライン2000』が発表され、わが国でもこのガイドラインに準拠した蘇生法が施行されるようになりました。大阪府医師会が行っていますACLS大阪の二次救命処置コースはこのガイドラインに準拠しています。今回、2005年末に、国際蘇生連絡協議会(ILCOR)が『心肺蘇生に関わる科学的根拠と治療勧告コンセンサス(CoSTR)』を発表しました。日本救急医療財団の日本版救急蘇生ガイドライン策定小委員会は、このコンセンサスに基づき、わが国の新しい救急蘇生ガイドラインを作成しました。このガイドラインでは、今までのガイドラインと変更された項目がいくつかあります。救急の日も近いことですので、その点をお知らせしましょう。なお、一次救命処置(BLS)のガイドラインは確定していますが、二次救命処置(ALS)のガイドラインはまもなく確定する予定ですので、今回はBSLのみについて記載します。

 今回の新しい救急蘇生ガイドライン(BLS)では、「市民および非日常的に蘇生に携わるものが行うBLS」と「主に日常的に蘇生を行う者、ALSを習得する者が行うBLS」に分けてガイドラインが作成されています。両者に細かな差は見られますが、いずれに対しても、最も強調されたことは、一次救命処置については、心臓マッサージ(胸骨圧迫)を、(1)できるだけ早期から、(2)十分な強さで、(3)十分な回数で、(4)絶え間なく、(5)圧迫解除は胸がしっかりもどるまで、行うということです。具体的にいうと、(1)では、市民においては「正常な呼吸」や「普段どおりの息」がない場合は心停止とみなし、直ちに人工呼吸を2回試み、胸骨圧迫を開始するということです。人工呼吸に関しては、約1秒かけて、胸の上がりが見える程度の量を吹き込みます。人工呼吸が実施困難な場合はそれを省略して、すぐ胸骨圧迫を開始します。胸骨圧迫の位置の目安は、乳児以外では、「胸の真ん中」または「乳頭と乳頭を結ぶ線の胸骨上」であり、必ずしも衣服を脱がせて確認する必要はありません。(2)については、胸骨が4~5cm沈むまでしっかり圧迫する必要があります(成人)。(3)に関しては、1分間に100回の速さで行います。“森のくまさん”の歌に合わせて行うとこの回数になるといわれています。(4)胸骨圧迫は、何らかの応答や目的のある仕草(例えば、嫌がるなどの体動)が現れる、または救急隊などに引き継ぐまで続行します。(5)においては、胸骨圧迫を解除するときには、掌が胸から離れたり浮き上がったりしないように注意し、胸が元の位置に戻るまで充分に圧迫を解除することが重要です。また、胸骨圧迫と人工呼吸の比率は30:2(2名の医療従事者が乳幼児に対して行う小児2人法の場合は15:2)と定められました。

 自動対外式除細動器(AED)使用に関しても変更されています。突然死を引き起こす心原性心停止の直接原因としては心室細動が最も多いと考えられています。これらの不整脈に対するエビデンスのある治療法は電気的除細動のみです。除細動の効果は、その発生から施行までの時間が早ければ早いほど高く、除細動が1分遅れるごとに社会復帰率が約10%低下するといわれています。よって、心室細動および脈の触れない心室頻脈に対する早期除細動の有用性は、今回のガイドラインでも前回と同様に強調されています。今までは“3連続除細動:AEDのパッド(電極)を装着するとAED本体が自動的に心電図解析を行い、除細動が適応であると解析されたら、音声メッセージの後自動的に充電が始まり、蘇生実施者が放電ボタンを押すと除細動が開始され、その後すぐ、AEDは心電図を自動的に解析し、同様の除細動を合計3回施行すること”が行われてきましたが、今回のガイドラインでは、除細動は1回のみ施行し、その後速やかに30:2の胸骨圧迫と人工呼吸を2分間行い、その後に循環のサインを確認するとなりました。1回の除細動で心室細動が停止したとしても、心拍再開には時間がかかり、除細動直後には十分な心拍出量が得られないことが分かりましたので、1回の通電直後から、心電図などを再評価することなく、胸骨圧迫をすぐ再開することとなりました。

 最後に意識のない人を見かけた時の市民の対応手順を記載しておきます。肩を軽く叩きながら大声で呼びかけます。何らかの応答や目的のある仕草がなければ「反応なし」とみなし、大声で叫んで周囲の注意を喚起し、心肺蘇生(CPR)を開始しましょう。誰かが来たら、その人に119番通報とAED(近くにある場合)の手配を依頼し、自らはCPRを継続します。もし、救助者があなた一人だけの場合は、以下のようにしてください。意識のない人が成人の場合は、あなたはまず、119番通報を行い、AED(近くにあれば)を取りに行き、その後CPRを開始します。意識のない人が小児の場合(ここでは概ね1歳から8歳未満を小児とする)は、あなたは直ちにCPRを開始しましょう。2分間(5サイクル)のCPRが終了した時点で、119番通報を行い、AED(近くにあれば)を取りに行きましょう。子供では呼吸原性の心停止が多いため、119番通報やAEDよりもCPRの開始が優先されます。

参照:日本救急医療財団の日本版救急蘇生ガイドライン策定小委員会のホームページ